ラダーの脳内書店

元書店員→現建築家による文学・建築情報ブログ

【ミニマリスト建築家が選ぶミニマル黒小物 】ブラック×イージーパンツ5選

黒ボトムスー汚れカモフラージュと足長効果の魔力

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Author: Alex Jones


これまで試してきた黒ボトムスについて書こうと思う。

 

絵具、泥、食べこぼし、ひっつきむし

破天荒な幼少期のズボンにはキズ汚れはつきものだったが、

そんなことを気にする子供はほとんどいないだろう。

無垢な幼少期を経て僕たち大人になり、

注意力と羞恥の感情を身に覚え、

ズボンを汚さずに一日を終えるという技能を体得することになる。

 

しかしながら万が一何かをこぼしてしまった状況を

僕たちは想定できているだろうか?

そんな汚れに関するリスクを無に帰すのが黒ボトムスであり、

しかも黒ボトムスに、黒シューズに黒靴下を合わせれば、

問答無用の足長効果なる禁断の果実の味をしることになるだろう。

 

成長して毛むくじゃらになった両足を今日も黒ボトムスに通しながらこう思う。

「黒ボトムスってなんてラクなんだろう!!」と。

 

 第5位 STILL BY HAND カジュアルテーパードパンツ

 

 

日本発祥のSTILL BY HAND。

「手仕事でやってやるぜ」という

クラフト精神の国に生きる者の矜持を感じる細部まで妥協のないミニマルなつくり。 

ファストブランドに比すれば当然コストもうわぶるが、おすすめできる。

一時期はこれに加えてコート、カーディガンを愛用していた。

 

第4位 NIKE カーゴパンツ

www.nike.com

 

快適性でいえばNIKEカーゴパンツをお勧めしたい。

兎に角ラクなのだ。

個人的には、スポーツブランドをワードローブにしてしまうことにはネガティブだ。

 

毎日履くのにラクなのはいいけど、適度な緊張感も維持していたい。

という天邪鬼マインドにより別の黒ボトムスを探すに至った。

 

 

 

 

第3位 UNIQLO ストレッチパンツ

 

 

お馴染みユニクロユニバレが嫌で嫌で、買った瞬間にタグを切り落とし、あるいは油性マジックで塗りつぶしていた学生の時分の自分にこう言いたい。

ユニクロは倭の国の黒ボトムスの父であるのだ。敬えい。と。

 

黒ボトムス入門にはうってつけの価格帯と、文句のない商品バリエーション。

その時々の自分の好みに合わせていろんなボトムスを試しまくったのはいい思い出。

おしゃれ黒ボトムス探求の前段に、まずは試着室を2時間は独占して、自分にあうサイズやシルエットを導いてみるのもいいだろう。

 

 

第2位 MUJI Labo イージーワイドパンツ

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引用:https://www.muji.com/jp/ja/store/cmdty/detail/4550182795462

https://www.muji.com/jp/ja/store/cmdty/detail/4550182795462

 

2011年にマーガレットハウエルを運営する案グローバル社と提携した、

いまをときめくミニマル医療の巨大母艦MUJI Labo.

店頭を通り過ぎるたびに、渾身のミニマルライン弾頭には圧倒される。

 

こちらのイージーワイドパンツは二本購入した。

 

第1位 Cookmanイージーパンツ

 

 

ameblo.jp

 

 

 

聞いたことのある人は少ないかもしれない。

だからこそ、僕はこの一本に乗り換えた。

 

「ラダーさん、服っていつもどこで買ってるんですか。」

そんなときにコアなブランドをさらっといえることほどおされなことはない。

 

コスト、サイズ感、質、履きやすさ、マイナーネーム、

これが現時点での僕のベスト黒ボトムスだ。

 

 

 

【ミニマリスト建築家が選ぶミニマル黒小物 】ブラック×ランニングシューズ5選

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Old Work Shoes by George Hodan

「目立たなくて歩きやすい黒い靴」

僕はだいたい黒い服しか着ないし、靴だって黒ばかりだ。

 

僕の黒ミニマリスト思考は学生時代の書店員アルバイトで

「目立たなくて歩きやすい黒い靴」を指定されたその日にはじまったように思う。

 

「どうせバイトで黒い靴を履かないといけないなら

プライベートでも履けかるかっこいい黒い靴を見つけてやろう。」

 

以来、僕は取りつかれたように、機動性と意匠性を兼ねた究極の

「目立たなくて歩きやすい黒い靴」を求め、

様々なブランド、メーカーの

黒のランニングシューズを試してきた。

まったくもって主観的な評価ではあるが

僕がこれまでに履いてきた「目立たなくて歩きやすい黒い靴」達を、

 ランキング形式でおすすめしていく。

 

 第5位 アークテリクス Arakys Approach

 

  

 

トレイルランシューズとして知られるこちらのモデル。

デザイン性もさることながら、ゴアテックス仕様の機能性に優れた逸品。

ベルトのルーズ感が特別な一足。

 

 

 

 

 

 

第4位 ナイキ AIR HUARACHE RUN ULTRA 

 

本格的なレース仕様のランシューというよりは、

少しボリュームのあるシューズモデルが好み。 

話題のエアハラチのテクトニックなデザインに惹かれる建築家は多い。

僕もこれまで二度履きつぶしたが、その間かぶりまくってしょうがなかった。

 

 

 

第3位 On オン クラウド オールブラック

 

 

 [オン] クラウド メンズ オールブラック US 12.5(30.5 cm)

最近よくみる『オン』のオールブラック。
ミニマルなシルエットに、ソールにはリブでこれだけの立体感を持たせておいて、
この軽さ。Less is more を体現するスーパーシューズである。
上司と同僚がこの色違いモデルに乗り換え始めてきたことにより購入継続を断念。

 

 

第2位 アシックス オニツカタイガー

 

ファッション業界において流行は二十年で繰り返されるという説がある。

この使い古された定説に生唾を飲んでいるのは、

僕がこのアシックスのメキシカンストライプの運動靴と共に

片田舎の中学の砂場で飽きもせずに三年間跳躍していたあの日々が

そろそろ二十年前になろうとしているからであり、

僕がここ数年愛を感じて止まない至高の黒ランニングシューズそれこそが

アシックスブランドであるからだ。

 

ちなみに当時のASICSはオリンピックに合わせてシューズのサイドストライプのデザインを変更しており、今ではおなじみのこの縫い目のような美しい稜線も

元はメキシコオリンピック用のデザインだったのがその名の由来だという。

(現在はアシックスストライプに改名)

 

アシックス愛が爆発してしまったが、

 

細身のスタイルにも合うタイトでどこかレトロなつくりの

このオニツカタイガーシリーズの漆黒のロードランナーは、

時には走り、時には客をもてなし、時には現場に赴く

マルチな建築家の服装マナーに適った理想の一足であると思う。

 

本当にここ数年のアシックスのデザインディレクションには刺激されっぱなしであるのだが、最近はこちらのGER-MAI TRIPLE BLACKを虎視眈々と狙っていたりする。

item.rakuten.co.jp

 

 

第1位 アシックス JOLT2

 

 

この佇まいに、めまいにも似た既視感を覚える方は、

おそらく中学のときの体育教師が履いていたのがこのモデルだろう。

 

「ロードジョグ」の系譜に連なる「安くて良い靴」の後継であり、

最もベーシックなロードランニングシューズであるJOLT2の魅力は

 

その圧倒的なコストパフォーマンスだ。

汎用で骨太な体育教師的デティーに、

ストリートランの衝撃を和らげる厚めのソール

申し分ないボディのボリューム感。

 

これをいざ真っ黒にぬってみると

なんと現代のストリートシーンに驚くほどフィットするではないか!

 

安くて、丈夫で、かわいくて、ネタにもなる。

今では僕の通勤ラン用の一足はこのJOLT2なのである。

 

 

 

 

ララバイ / チャック・パラニューク

 

 

ララバイ (ハヤカワ・ノヴェルズ)

ララバイ (ハヤカワ・ノヴェルズ)

  

 

Connecting the dots

点と点をつなげるという意味の「Connecting the dots」とは

スティーブ・ジョブズの名言である。

 

You can't connect the dots looking forward; you can only connect them looking backwards. So you have to trust that the dots will somehow connect in your future.

将来をあらかじめ見据えて、点と点をつなぎあわせることなどできません。できるのは、後からつなぎ合わせることだけです。だから、我々はいまやっていることがいずれ人生のどこかでつながって実を結ぶだろうと信じるしかない。

 (引用: 「ハングリーであれ。愚か者であれ」 - ジョブズ氏スピーチ全訳|日本経済新聞

 

 

ラニュークの物語をはじめて読む人たちの

手元のしおりにこの言葉をプリントしておきたくなる。

 

なぜなら 怪奇現象の起こる家について語ったかと思えば、

およそ一生のうちで知ることのないニッチな雑学を放り込み、

魔術的な『間引きの詩』で上司や、マンションの住人を突然に亡き者とし、

それらすべての一見支離滅裂な「点」がしばらくは打ち続けられるからだ。

散々に煙に巻かれた読者は、散り散りの点が、いつのまにか歪に結ばれ、

風変わりな「面」として立ち現れることを、

さらにその「面」がどこにも見覚えのない立体的なスペクタクルとカタルシスをもってして僕たちを見下すことになるその瞬間まで読者は我慢しなければならない。

 

 

ファイトクラブ』の破壊の果てに

 

Fight Club (字幕版)

Fight Club (字幕版)

  • メディア: Prime Video
 
ファイト・クラブ〔新版〕 (ハヤカワ文庫NV)

ファイト・クラブ〔新版〕 (ハヤカワ文庫NV)

 

 

 

破壊は彼の作品のテーマだ。

ファイトクラブで暴力と破壊によるクリエイションが最高調を迎えた。

破壊から創造を生み出すストイックな肉体派集団によるニーチェ的思想も本作ではやや息を潜める。(ちなみに優れた超人による大衆支配を志向したナチスヒトラーニーチェを愛読していた。)

 

間引きの詩と呼ばれる聴いたものを絶命させる

力を持った魔の書をめぐるこのお話。

本のうたを唱えるだけで簡単に人が死ぬ。

デスノートを想起させるアイテムだとも解説では語られるが、

デスノートと間引きのうたの共通点は、

「殺す側にはなんの痛みも発生しない」という点だ。

名前をよぶor詩を詠む。これだけで気付けば誰かが死んでいる。

 

ファイトクラブ」で突き抜けた破壊行為によるエンターテインメント芸術を

完成させた彼の所在不明の熱狂の余波を信じた僕としては

この痛みも犠牲も伴わない破壊活動というのには、どうにも心が訴求されない。

 

邦訳版が出版されたのもララバイが最後で、パラニュークは本作を境にオカルティックな作風へと舵を切る。

 

彼はとっくにファイトクラブを卒業していて、

僕だけが未だファイトクラブの彼を引きずっているに過ぎないのだろう。

 

 

「痛みのない破壊活動」とアイヒマン

 

 

この「痛みのない破壊活動」というのは

サイコパスでもない限りは)普通に生きている限り認識しづらい。だれだって破壊には痛みを伴うものだからだ。

 

しかしながら、そんな根本的な良心を脅かす魔性のアイテムー本書でいうところの間引きの書、『デスノート』でいうところのデスノート、二十世紀でいうところのを手にしたとき、

残念ながら人間は恐らく変わってしまうのだ。

1人の死は悲劇だが、集団の死は統計上の数字に過ぎない

アイヒマンテストで、ナチスに陥ってしまったアイヒマンのこの言葉はまさにこのことを物語っている。

 

本書の主人公がアイヒマンだったのか、そうでなかったのか。は是非一読頂きたい。

 

 

映画化?

 

2016年ごろには、『ララバイ』映画化のはなしもの報じられていた。

www.cinematoday.jp

 

 

この映画実現へのクラウドファンディングの呼びかけも

本人出演で公開されている。

 

 


LULLABY Kickstarter

 

ララバイは思い入れがあると話すパラニュークだが、

それもそのはず、彼の父が銃殺され、その犯人の極刑がきまる間に

この作品が書き上げられたというのだ。

そのあたりのはなしは『ララバイ』の巻末解説にも詳しく書いてある。

 

 

話は変わるが、彼の待望の新作は『Consider This』というエッセイだ。邦訳版はない。

こちらも即買ったが未だ手つかずである。

この記事の執筆で、パラニューク熱が再燃しているうちに、読んでおこうと思う。

Consider This: Moments in My Writing Life after Which Everything Was Different (English Edition)

Consider This: Moments in My Writing Life after Which Everything Was Different (English Edition)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハリネズミと狐 / バーリン

 

ハリネズミと狐――『戦争と平和』の歴史哲学 (岩波文庫)

ハリネズミと狐――『戦争と平和』の歴史哲学 (岩波文庫)

 

頑固か柔軟か


「キツネはたくさんのことを知っているが、ハリネズミはでかいことを一つだけ知っている。」

 

古代ギリシャの詩人アルキロコスの詩の引用から始まる本書は、

ロシアの文豪トルストイがキツネか、ハリネズミか、一体どっちなのかについて

考察する。

 

キツネとは、多元論、多様な要素の複合、複数のヴィジョンに基づき思考する。

作中ではヘロドトスアリストテレスモンテーニュエラスムスモリエールゲーテプーシキンバルザックジョイスが挙げられている。

 

対してハリネズミとは一元論、1つの実質、単一の明快なヴィジョンに基づき思考する。ダンテ、プラトンルクレティウスパスカルヘーゲルドストエフスキーニーチェイプセンプルーストを挙げている。

 

ここから現代のビジネス書などでは

キツネを柔軟性はあるが、一貫性がない。

ハリネズミを頑固で一貫性はあるが、柔軟性に欠ける。

という2つのタイプの明快な分類を与える。

 

ハリネズミの衣を借りたキツネとしてのトルストイ

 

戦争と平和(一) (新潮文庫)

戦争と平和(一) (新潮文庫)

  • 作者:トルストイ
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2005/08
  • メディア: 文庫
 

 

著者はトルストイ戦争と平和に対するツルゲーネフの辛辣な批判を皮切りに、

ハリネズミの衣を借りたキツネ像について考察する。 

戦争と平和に散在する歴史学的、哲学的な文章を、ひどく乱暴に物語を中断するばかりか、この偉大ではあろうが、自惚れの強すぎる作家独特の、なんでもないところで脱線するという嘆かわしい癖

ツルゲーネフトルストイの人柄と作品は批判するも、

登場人物の心理の動きを微細に、明快に描く技術。その芸術的才能は認めたそうだ。

 

 

トルストイは本来は狐であったが、自分はハリネズミであると信じていた。」である。理由は自由のないロシアで、一切の拘束を一掃できるような強い一元主義への情景からだというところに落ち着いていた。

 

井の中のキツネタイプ

こんな議論は所詮は二項対立による限られた見方でしかないという意見は最もだろう。

しかし本書を読めば、自分は一体どちらであのひとはどちらだ

ということを考えずにはいられない。

 

ネット上で莫大な情報量が飛び交う現代においては、

浅く、広く、労力なく自分に都合のいい情報だけを集めた

井の中のキツネタイプの人間が多いことだろうと考える。

なぜなら僕もその予備軍ないしは既にそのうちの一人だと思うからだ。

 

柔軟性には乏しかろうが、

自分の中の圧倒的にやりたいことで突き抜けられるハリネズミの姿を追う

トルストイの気持ちがぼくにもわかる気がした。

小説の技法 / ミラン・クンデラ

 

小説の技法 (岩波文庫)

小説の技法 (岩波文庫)

 

 

小説の書き方のノウハウが詰まっているのだろうという下心からページを開いたのだが期待は見事に裏切られた。

ページを開くとカフカドストエフスキーフローベールムージルヘルマン・ブロッホの引用に、インタビュアーとの激論、執拗な個人的辞書「六十九語」戦地の弾丸のように飛び交う、まるで思想の格闘技のようなエッセイ集だった。

瞬きする間もない西洋思想の応酬には、骨の髄まで痺れさせられた。

本書の見た目の厚みとは裏腹に、読んだあとはとにかく疲れた。

 

カフカの「城」を幼いときに読んで感動したんだというような文章があったが、

そんな早熟なこどもが、大人になって本気で論じたカフカ論の重みは生半可ではない。

 

自身に満ち溢れた彼の語り口も、本書のパンチ力に負荷をかけている。

 

以下に印象的だったことばも引用しておこうと思う

 

小説家とアジェラスト(ユーモアのない人)とのあいだには和解などありえません。

 

あらゆる偉大な作品には未完成の部分がある

 

書いていて思ったが、僕は小説家のエッセイというものが好きなんだと思う。

みなさん語り口に迷いがないのだ。物書きなんて迷いだらけな創作なはずなのに、

本書も含め、彼らからは本当に楽しんで書いているということがばしばし伝わってくるからだ。

 

作家エッセイで好きなものはベタだがスティーブン・キング村上春樹のものだ。

書くことについて (小学館文庫)

書くことについて (小学館文庫)

 
職業としての小説家 (Switch library)

職業としての小説家 (Switch library)

  • 作者:村上春樹
  • 出版社/メーカー: スイッチパブリッシング
  • 発売日: 2015/09/10
  • メディア: ハードカバー
 

 

建築書選_デンマーク建築入門

今日は海外文学紹介をお休みして、建築書紹介を行おうと思う。

学生時代、ぼくは海外文学と同じ熱量で、建築書にもその読書熱を傾けてきた

 

建築書とは概してとっきつずらそうだとか、高尚ぶっているとか

とかくそんなことを言われがちだ。無論そういう本が多いことは否定できない。

なぜなら建築学という学問は元来ブルジョワとアカデミズムによって牽引されてきたからだ。

 

しかしながらどんな貧しい国にも、どんな環境が厳しい場所にも

人がそこに住んでいる限り建築とはそこに不可避に現れ得る

至極原初的なモノなのだ。

第一、見ていいてかっこいいとか、かっこわるいとか、

素人目にも判断できてしまうぐらいだから、

誰にだって建築について語る権利はあるし、知る権利も無論ある。

 

建築という分野の裾野が少しでもひろがるお手伝いがぼくにできるなら、

ぼくはよろこんで今後も建築良書や建築小物についてシェアしていきたいと思う。 

 

 

デンマーク留学の決め手 / 一点もの近代建築と、前衛的現代建築の拮抗

 

 

実は学生時代にすこしばかりデンマークコペンハーゲンに留学していた。

なぜならデンマークが古典建築から現代建築への移行の過渡期にあるのではと思ったからだ。

今回はデンマーク建築の入門としておすすめしたい書籍をいくつかあげようと思う。

 

1_経験としての建築 /S.E.ラスムセン

経験としての建築 (1966年) (美術選書)

経験としての建築 (1966年) (美術選書)

 
Experiencing Architecture (The MIT Press)

Experiencing Architecture (The MIT Press)

  • 作者:Steen Eiler Rasmussen
  • 出版社/メーカー: The MIT Press
  • 発売日: 1964/03/15
  • メディア: ペーパーバック
 

 

 

近代建築隆盛の一端を担うプロポーション=視覚芸術としての

ゲーム的建築運動が席巻した欧州において、

目に見える美しさだけではなく、手ざわりや、素材感といった五感でたのしめる

ヒューマンな建築経験としての建築を北欧建築に見出した慧眼の書。

僕のバイブルといもいえる書である。

 

邦訳版より、英語版の方が入手しやすいし表紙もかっこいいので、

英語ができる方は是非原文で読むことをお勧めしたい

 

著者はデンマークの建築家S・E・ラスムセン

氏はシドニー・オペラハウスの設計者ヨーン・ウッツォンが師事した大御所中の大御所である。

 

 

2_デンマーク家具のデザイン史

 

 

そもそもデンマークとは建築もさる事ながら、家具の名作に恵まれた国である。

この本はそんなデンマークの家具サクセスストーリーを体系的に網羅している。本書を見れば近所のカフェやレストランといった身近に据えられた北欧デンマーク家具のウンチクを網羅できるだろう。

 

3_Jorn Utzon : Drawings and buildings

Jørn Utzon: Drawings and Buildings

Jørn Utzon: Drawings and Buildings

  • 作者:Michael Asgaard Andersen
  • 出版社/メーカー: Princeton Architectural Press
  • 発売日: 2013/12/03
  • メディア: ハードカバー
 

デンマークが生んだ世界的建築家ヨーン・ウッツォン

表紙はオレンジの皮に着想を得た説明不要の名シドニーオペラハウスであるが、他にも見応えあるウッツォン建築を堪能できる本書。

デンマーク国内のバウスベア教会がおススメ。

 

4.BIG  RECENT PROJECT

BIG RECENT PROJECT BIG 最新プロジェクト

BIG RECENT PROJECT BIG 最新プロジェクト

 

 

座右の建築家を据えるにあたって、BIGはもっとも取っつきやすい建築家の一人であるといえる。

元はOMAのレム・クールハースに師事したビャルケ・インゲルスによる

デンマークはもとい欧州屈指のデザインアトリエBIGの魅力は、

何よりそのアイコニックな建築フォルムとストラテジックなボリュームスタディの両立にあるといえるだろう。

 

4.ヤコブセンの建築とデザイン

ヤコブセンの建築とデザイン

ヤコブセンの建築とデザイン

  • 作者: 
  • 出版社/メーカー: TOTO出版
  • 発売日: 2014/06/20
  • メディア: ハードカバー
 

セブンチェアやアントチェアの産みの親ヤコブセン

これらの椅子を見たことのないひとはまずいないだろう。

しかしながら彼のその才能は家具にのみ

留まるものではない。

慎重に決定されたプロポーション。マテリアルの組み合わせ。職人的ニッチなディテールの数々。

現代という時代が失った、クラフトマンシップの真髄は本書と彼の仕事にあると言っていい。  

 

 

座右の建築家

足早に紹介したが、おそらく建築を学んだことのない人からすると

な記事だったように思う。

ある意味それでいいのだ。

この記事をきっかけにして、

どこかでまた今回紹介した建築家に触れる機会があったときに

「聞いたことがあるぞ」という親近感こそが僕にとってのこの記事を書く喜びである。

 

「好きな建築家は?」

建築家のあいだでは好きなアーティストや、好きな異性のタイプばりにはよくきかれるこのフレーズ。

座右の銘ならぬ、この「座右の建築家」をまずは定めることを建築学科では教わる

裏を返せば、誰か一人でも建築家の名前を知ってさえすれば、既に建築をそれなりに知っているという目で見られるということだ。。

 

そもそも建築を専門としていない方々から、だれか一人でも固有名詞で建築家の名を出された時には、建築家としてこれ程嬉しいことはない

この記事がその一助となることを祈って、これからも気長に書き続けていこうと思う。

危険なメソッド/デヴィッド・クローネンバーグ,クリストファー・ハンプトン

 ユングフロイト、ザビーナ

危険なメソッド(字幕版)

危険なメソッド(字幕版)

  • 発売日: 2017/06/23
  • メディア: Prime Video
 

 

本作は精神分析家は患者を映す鏡であると、あくまで客観的な臨床を説く厳格な分析心理学の父フロイトと、オカルト的世界にはじまる集合的無意識を説き、人間らしい臨床感をめざしたユングユングの患者であり愛人であったザビーナを中心とした伝記。

 

転移

診療されているうちにユングへ好意を抱いてしまうというザビーナ。

この医師への好意のことを、業界は「転移」というそうだ。

このまた逆、つまり患者への思いのことを「逆転移」というそうだが、

逆転移をおこしてしまったユングの患者との肉体関係や、対話ベースの臨床、果てには東洋の曼荼羅と自らの絵画の類似性から、自分の内的な潜在的思考は外的世界とつながるんだとする神秘的アプローチ、そのすべてを蔑み、ユングと距離を取ったフロイトだが、これというのは、フロイト自身が本当は自分がやりたかったことなのではないかとも思えてくる。

 

ユングと石

今日は映画評を書くつもりでこの作品を取り上げたが

結局は着地のない建築話の記事になりそうだ。

 

この映画には欠けていたが、ユングは石好きであったそうだ。

彼が石に夢中になったのは9歳頃で、ユングは後年に"石の塔"という別荘を、自らの手で石を積み上げて完成させている。

 チューリッヒの湖畔に建つこの家は彼の母の死をきっかけに、彼が思索に耽るための、避難所=アジールとして構えられたそう。

この石の家は、完成に十二年を要し、

家の石を積むためユングは石切工の資格まで取ったそうだ。

 

 

 

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ユングの「塔の家」の初期形(左・1923)と完成形(1955)。ヤッフェ編『ユング自伝2』(みすず書房)より)



 

並々ならぬモチベーションと時間をかけて建てられたこの家。

映画評とはまったくもってそれるが建築家としてすこしは考察しないわけにいかない。

 

 

かわいい集落

僕の外観の第一印象は「かわいい」である。 

僕だけでの意見ではないのかもしれない。

 

スイスの田舎町の湖に浮かぶ、パラパラと浮かぶ赤褐色のハット屋根、適度に分節されたボリューム、小さく離散的に穿たれたヴォールト窓。厳かな石のテクスチャ。

精神分析学の巨匠が計画した家だというには

いささか牧歌的、寓話的な佇まいだ。

小さな集落のようにも思える。

 

この家の佇まいで思い浮かべたのは
ストックホルムのメーラレン湖に面したストックホルム庁舎である。

 

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(これは私が留学中に撮ったものだが、そもそも湖の上からのアングルがなかったので興味がある方はネットで調べてみてください。)

 

塔状のプロポーションや、煉瓦のあたたかい外壁には「かわいい」といわざるを得ない。

今でも思い出すが、金もなく、北欧の曇天と寒さに鼻水を垂れながら訪れたこの庁舎をみたときは幾分心が晴れた。

 

それもそのはず建設がはじまった1922年というのは、ナショナル・ロマンティシズムという

北欧、東欧、南欧における民族性を志向するローカリズム回帰の流れが美術、文学にはあったそうで、このストックホルム庁舎も1923年に完成している。

 

集落への回帰

 

外観は如何にも当時の流行なのだろうが、

一説には、ユングがアフリカ旅行で目にした集落の小屋にインスピレーションを受けたとも言われてる。

 

 

この話を聞いた時、建築家であればすぐに原広司氏による「集落の教え」が浮んだはずである。

 

 

集落の教え100

集落の教え100

  • 作者:原 広司
  • 出版社/メーカー: 彰国社
  • 発売日: 1998/03/01
  • メディア: 単行本
 

アフリカの集落調査から見出した100のありがたいお言葉がまとめられた本書。

建築を学んでいない人にとっても十分に楽しめる読みものだ。

 

原広司氏もアフリカの集落調査の中から、当時の世界の建築思想の大枠であるポストモダンを超える原理を探求した。

 

彼に師事した国内屈指の建築家である隈研吾氏も、地方や世界に足繁く赴き、その地方の素材によって「集落的な建築」を作り続けている。

 

 

負ける建築

負ける建築

 

 

二人の建築家とユング氏が新たなスタートとして、未開の社会アフリカの家に学んだ背景には何らかの共通項がある気がしてならない。

 というか映画評でもなんでもない記事になってしまった。